正直言って、俺は今までの人生を振り返って、こいつは俺の友達だと胸を張って言える奴など、いない。
それは機会がなかったわけでも、周囲に問題があったわけでもなく、俺自身が家族以外を大切な存在だと認めようとせず、人付き合いに酷く臆病になっていたからだ。
表向きは問題なく過ごせても……寧ろ問題なく過ごせるからこそ、今まで顧みずに過ごしてきてしまったのかもしれない。
けれど……今自分達が置かれている状況は、命懸けになることもしばしばな戦いと隣り合わせの生活で……。
だからこそ、日常の何気ない会話や仲間への信頼なんてものが大切なのかもな、なんて……らしくもない事を考えたりもして……。
俺にとって、最も恐れていた日を過ぎてから、兄に言われた『お前はもう少し外に目を向けなさい』との言葉が気に掛かり出したのもある。
外に目を向ける、なら……友達を作るのも、悪くないかな、とそう思った。
ただ、思ったのはいいが、今まで人付き合いをサボっていたツケか、誰かと仲良くなりたいと思ってもどうすればいいのかいまいち分からないのだ。
クラブで話して、ちょっとずつでも信頼関係とか、築けりゃいいかなとか思ったりはしたけど……。
実際、その努力はしていくつもりなのだけれど……どうせなら、一団員としてじゃなく、クラブの友人としてじゃなく、友達になれたらいいな、なんてぼんやりと考えていた相手が、亨で……。
同じ趣味を持つ相手に、初めて会うことが出来た喜びもある。同い年で、同じ趣味を持つ友人。
あまりにも単純な理由かもしれないけど、別に理由やきっかけ自体は大きな問題じゃなく……仲良くなりたいと思った事実の方が大事だなんて、柄にもなくそう思った。
とは言え思っただけで伝わるはずもなく……「友達になりたい」だとか「仲良くなりたい」だなんて、ストレートに告げる勇気もなければぶっちゃけた話恥ずかしい。
……日本庭園を一緒に見に行かないかと誘ってくれたのも、大事な友達だと言ってたのも嬉しかったのに、どう伝えたらいいか分からない。
だけど……。
あの庭園で亨が口にしたのは、俺が言いたくて、でも言えなかった言葉で……。
向けられたあまりにもストレートなそれに、嬉しい反面言葉に詰まった。
結局、変にカッコ付けて返しちまったけれど……。
伝わった、だろうか……。
一緒に行けた事を、大切な思い出だと思ってる事は。
またそういう思い出を作れるくらい、親しくなりたいと思ってる事は。
……伝わっていると、いいな……。
そして秋になったら……あの青々としていた紅葉が赤く色付く頃には……もっと自然に、笑いあっていられるようになっていればいい。
そんな本音は隠して、何時も通りの日々へと戻る。
……繰り返しに思えるこんな日常だって、きっと大切な思い出になるのだろうと、そう思うから……。
PR
