ガシャン、と叩き割られた鏡が悲鳴を上げる。
ブレイズゲート、世界救済タワー……その、17階に響き渡った破壊音は、すぐに静寂に飲み込まれ、消えた。
鏡を割った張本人は、荒い息と共に「くそっ」と悪態を一つ吐き出す。
ぽたり、垂れた紅はじわじわと床を汚していくが、そんな事に気を配る余裕もなく……。
こうして暴れれば少しくらい気が紛れるかと思ったのに……。
思ったよりも呆気ない体力の限界に、引き返さざるを得ない状況に苛立ちしか浮かばない。
1人でくるなら、回復は必要ない。
そう思って攻撃だけを活性化してきたというのに……それでも、この程度。
これ以上はまずい、とどこか冷静な自分が分析するけれど、結局この数日抱えたままの苛立ちは消えないまま燻ぶり続けている。
『あんたかてそうやろ?自分にとって大事なお人が笑ってくれはったら、それだけで嬉しゅうなりまへん?
オレにとってのあんたが、そういう相手ってことや』
すぐに降りるだけの体力は残っていない、とずるずるとその場に座り込み目を閉じれば、数日前自身に向けられた言葉が頭を過ぎる。
あぁ、そうさ、俺だってそうだ、大事な奴が笑っていてくれるんなら、それだけでいい。
それだけで、十分だ。
そしてその大事な奴は……。
……変わらない、はずだった。
変わるはずが、なかったんだ。
俺にとって大切なのは、家族だけ……。
和兄ちゃんと、翼の……たった2人の、家族だけ……。
それ以外なんてない。
それ以上なんて、尚更あり得るわけがない。
友達や仲間って言ったって、家族以上になんて、そんな……。
そんなこと、あるはずが……あっていいはずが、ないんだ。
それなのに……どうして……。
どうして俺はあの時……真っ先に家族の姿を思い浮かべなかった……?
あの時、頭に浮かんだのは……思い出し掛けて否定するように頭を振れば、くらり、と急に世界が揺らぐ。
「クー!?」
血が伝ったのか、僅かに赤く染まる視界の中、此方へと走ってくる人影が呼んだ名は、妹しか使わないそれで……。
ギリギリだった意識は保たれることなく、闇に飲み込まれかける。
「……れが、大事、なのは……家族、だけだ……」
意識を失う刹那、呟いた言葉は……届いた、だろうか。
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