「……駄目、か。」
目の前で形作りかけた影の獣と、桜の樹。
けれど保てず崩れたそれに、一つ溜息を落とす。
少しくらいは、成長した気でいた。
少しくらいは、強くなれた気でいた。
けれど……まだまだ、足りない。
足りないからきっと……間に合わなかったのだ、今回も。
あの時、トラウマは確かに付与された。
でも、何も変わらなかった。
何の変化も読み取ることは出来なかった。
……当たり前と言えば、当たり前。
彼らは既に、死んでいたのだから。
「結局、分からず仕舞いだな……あの時のイフリートの事も、今回のアンデッドの事も。」
討ったのは、自分達なのに。
彼らがその歩みを止める、その最後の時に傍にいたのは自分達なのに。
それなのに……何も、知る事が出来なかった。
彼らが何をしていたのか。
何を思って生きてきたのか。
何が好きで、何が嫌いだったのか。
……彼らの名前すらも……自分は、何も知らない。
分かったのはただ、生前の彼らがあんな事を望みはしなかっただろうって、それだけ。
他の何一つ、知ってやる事も出来なかった。
らしくない感傷。
そんな事は分かってる。
分かっている……これはエゴだ。
何を掴む事も出来なかった、そんな自分への苛立ち。
その命を背負う気は、自分にはない。
そんな覚悟をする程……知っている誰かでは、ない。
知らない奴のためにそこまでするほど、自分は優しくもなければ善人でもない。
ないけれど……。
「……出来るなら、せめて……」
戦ってやりたいとは思うのだ。
彼らを殺した相手と。
彼らを良い様に扱った相手と。
せめて、それだけが……自分が彼らにしてやれる、唯一の手向けだと思うから。
少しだけ関わった、自分からの……知る事も出来ない、自分からの、唯一の……。
「……少しでもいい。情報をくれ。」
ぽつり、呟いた声は、聳え立つ建物の前で、誰に聞こえるでもなく消える。
――どうか、どうか、少しでも――
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