「家の手伝いがしたい?」
「うん!」
『魔法』
家の手伝いがしたい――
突然そんな事を言い出したのは今年で8歳になる弟。
まだ外で遊ぶのが楽しい時期で、少なくとも家事をしたいなんて言い出す年齢じゃないその子は、笑顔で頷いているのだけれど……。
……一体どこで何を聞いてきたらそんな発想に到るのか。
また気を遣ってるのかとも思ったが、それにしては笑顔に何の曇りもない。
……考えるより聞いた方が早そうだ。
「どうしてそう思ったんだい?」
「だって僕も家族だよ!家族はお手伝いするんだよ!」
一生懸命告げてくる姿は我が弟ながら可愛いがやはりいまいち要領を得ない。
確かにまぁ、家族が家事を分担するのはおかしな話ではないし、そのうちお願いしようとは思っていたのだけれど……それもあと数年後のつもりだったわけで。
とは言えやりたいと目を輝かせるその意欲を殺いでしまうのも忍びない。
妹がああだから目立たないだけで、意外とこの弟は好奇心が旺盛なのだ。
別に家事を覚えることは悪い事ではないのだし。
「やりたいんならやってもいいけど……危ないのは駄目だよ?」
「……んっと、喧嘩より危ないの、ある?」
「ないかな」
思わず即答してしまった。
小学生に上がったばかりとは言え……あの妹の喧嘩の規模を考えると家事の方が余程安全なのは確かだ。
何かがおかしい気はするけれど事実なのだから仕方ない。
ならやってもいい?やってもいい?と目で訴えてくる弟に頷いて見せれば、「やったー」と歓声が上がる。
子供らしくて微笑ましいんだけど、やりたい事が家の手伝いな辺りが少々不思議だ。
まぁ、それも個性だろう。別に否定するものでもない。
「あのね、和お兄ちゃん…!僕ね、僕ね、お料理がしたい!」
さて、何を任せるべきか……あとその場合小遣いもあげるべきだろうか。
しかし小遣いをとなると妹も黙ってなさそうかな……これは両親に相談した方がよさそうだ。
思考に意識を割きかけた俺の袖を引き希望を伝えてきたはいいものの、その提案は正直予想外と言うか……。
普通に考えれば、流石に料理をさせるには年齢が低すぎる。
いや、俺がついていれば大丈夫だろうか……注意をしておけば勝手にやるような事はしないはずだし……。
とは言え刃物に火と少々危険が伴うのであまりお勧め出来ない。
「……だめ?」
黙る此方の様子に駄目だったのかと落ち込む様子にふと疑問が起こる。
そもそもどうして料理なのか。
ダメじゃないけど、と前置きして素直に疑問をぶつけてみれば、嬉しそうな笑みを浮かべて帰ってきた答えはまぁ子供らしいもので……。
――だってね、だってね、とろとろがふわふわになったりですごいもん!魔法みたい!
……こんな事を言ってたのに、1年後には普通に料理作れるようになってたんだから子供の成長って怖いものがあるなぁ、なんて思うけれど……。
まぁ、結果オーライ、かな、俺としては。
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