模擬戦が出来る。
百鬼に所属したいと思ったのは、言ってしまえばそういう単純な理由だった。
強い奴がたくさんいると聞いてこの学園へ来たはずなのに、
実際入ってみれば早々校内で喧嘩が出来る訳なくて……。
かと言って、灼滅者としての知識を持って、その力を得て、その上で今更一般人の不良相手に暴れた所であまり楽しくは感じない。
バトルリミッターを使えばスリルくらいは味わえるけど、最近は名前が知れ過ぎたのか逃げていく奴のが多くて、不完全燃焼気味だった。
そんな時にクーに模擬戦がやれるクラブがあると聞いて、入部届けを出したのだ。
模擬戦闘とは言え、灼滅者同士の真剣バトル。それが出来るなら、きっとすごく楽しいだろうと思った。
で、実際入ってみて凄い楽しくて……けど、少し気になった。
“強さ”って、何だろう、って。
強さの形なんてものは多分人それぞれで、たくさんたくさんあるもので……。
なら、俺は?って。
俺が持ってる強さって何だろう?
俺が手にしたい強さって何だろう?
……よく、分からない。
だから、探したい、って思った。
百鬼でなら、探せるんじゃないか、って思った。
だってみんな全力でぶつかってるから。
俺は今まで、戦いを楽しむことだけを目的にしてきたけど……もう1つくらい、別の目的っつーか、目標があってもいいかなと思ったんだ。
拳で語る、何て言うけどさ……そう言うの、俺は本当にあるものだと思ってるから。
言葉にならなくても、戦いの中で伝わるもんはあるのかな、って、さ。
模擬戦をしながら、お互いに何かを掴んでいく。
そう言うのって、すごくいいなと思った。
武器を色々試してみようって思ったのも、ここでならきっと全力でぶつかっても受け止めてもらえるって……そう言う奴らだって、思えたからだ。
友達は、今までだっていたけど……仲間って、こういうのを言うのかなって思って……そう思えた自分が、ちょっと嬉しかった。
でもだからこそ……悔しかったんだ。
憂斗との試合、あの時、あのタイミングで負けてしまった事が。
別に俺と同じ考えを皆がしてなきゃ嫌だ、なんて思ってるわけじゃない。
まだ付き合いだって浅いし、俺自身を信じて欲しいなんて思ってるわけでもない。
……いや、そりゃそのうち信頼してもらえりゃ嬉しいとは思うけどさ。
それは別に、今すぐじゃなくたって構わないんだ。
『本気でぶつかっても受け止めてくれる、そういう場でそう言う奴だと信じてるから、真っ向から試せるんだよ…!』
あの時口にした言葉は、俺がお前を信じてるって事を、伝える言葉で……。
だからお前も俺を信じろよって、言いたかったわけじゃない。
信頼してるって事実だけでも、伝えられたらなって……。
何となくだけど、憂斗はそういうの、避けてるように思えたから。
だけど……
『…意味がわかりません。何ですかそれ……意味が…わかんねーですよッ!!』
あれは、拒絶だったんだろうなって、思う。
そしてそのタイミングで倒れてしまったのが、その拒絶に納得してしまったようで……悔しかった。
信じる事をやめるつもりなんてない。憂斗の事も、他の皆の事も……大好きだし、信じてる。
なのに、倒れてしまった。
負けたことよりも、それがすごく悔しくて……。
だけど、あれで諦めてなんてやるもんか。
自分を信じてくれてる人がいるってこと、それが力になる事もあるって知ってるから。
独り善がりの押し付けでしかなくても……諦めないって、決めたんだ。
一方的だとしても、俺は仲間だと思ってるから……幸せの押し売りでもなんでもしてやらぁ、ってな。
でもま、今俺があーだこーだ言ってどうにかなるもんでもないしな。
いつか認めてもらえるように、認めさせられるように、気長に頑張るさ。
だからまぁ……覚悟しとけよ、なんてな。
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